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人口の急速な高齢化によって、高齢者の健康問題への関心が高まっている。老化に伴う骨粗鬆症、およびこれに関連して骨折、特に大腿頚部骨折は老年期の痴呆や寝たきりの原因となり、高齢者の活動性を著しく制限する13)。この高齢者の大腿頚部骨折にはバランス調整能力(平衡機能)の低下による転倒が深く関与している4,11,14,16)。高齢者の転倒を防ぎ、骨折を予防するためにはどのような対策が必要なのか。住居や道路など高齢者の生活を支える環境面の整備・改善に加え、高齢者自身がバランス機能をできるだけ高く維持するための方策を体力面からアプローチすることが重要である。
我々は、一般の地域高齢者を対象にした研究で、閉眼および開眼片足立ちテストで評価した高齢者の平衡機能は、他の体力指標に比較し著しく低下していることを報告した9)。本研究では、高齢者の運動・スポーツによる平衡機能低下防止策を論ずる基礎資料を得ることを目的として、週1回、約2時間(実働1〜1.5時間程度)の運動・スポーツの影響を、短期と中長期の運動継続期間について検討した。

研究方法

1. 対象者

運動・スポーツの短期効果の調査対象者は、京都市が60歳以上市民を対象に開催している「すこやかスポーツ教室」(以下「スポーツ教室」とする)受講生である。「スポーツ教室」は、スポーツを通じての体力づくりや健康づくり、高齢者同志の親交の場を提供することを目的に平成4年に始まり、これまでに15種目が行われている。教室では、各種目とも週1回、1回2時間(実質の運動時間約1時間前後)、8週間の初心者向けの内容でプログラムが組まれている。本調査には、平成7年秋期開講クラスから55名(太極拳12名、社交ダンス26名、ソフトエアロビクス17名)の参加があったが、解析には教室開始時と修了時の体力測定値のそろっている女性25名(太極拳3名、杜交ダンス11名、ソフトエアロビクス11名)を用いた。
運動・スポーツの中長期効果調査の対象者は、「スポーツ教室」修了生が中心になって自主運営している「すこやかスポーツクラブ連合会」(以下「運動クラブ」とする)所属者である。「運動クラブ」は、「スポーツ教室」第1期修了生が出た平成4年秋に発足し、平成6年春に連合会組織を創立し、現在14クラブが活動している。ここでは、週1回、約2時間、各人のぺ一スにあわせ自由に休憩をとりながらスポーツを楽しんでおり、対象者の運動継続年数は半年から3年である。本調査には、14クラブから276名の参加があったが、解析には、年齢60歳以上80歳未満で、実施している運動種目として男女いずれか10名以上のデータがそろっている5種目(9クラブ)、231名(男性55名、女性176名)を用いた。なお運動種目は、太極拳(太極拳初級、太極拳中級、気功)、球技(バドミントン、卓球、テニス)、社交ダンス、ソフトエアロビクス、ペタンクの5群に分け、種目群間差を比較した。表1には、この5群の男女別年齢群別の対象者数を示す。男性の場合、社交ダンス該当者が10名に満たなかったため、平均値の比較は4群で行った。

Table 1,Number of subjects practicing various exercise.No.Male(Female)

 

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